2020/03/25
第一話 回顧
こんばんは
突然ですが、
今晩からしばらく小説をアップする
『くるあん工房』うえはらです

よろしければお付き合いください

カテゴリ欄の『小説』に書き溜めていきますので、
そちらからアクセスいただくと読みやすいと思います。
原作
白鯨百一氏作:本土決戦
第一話 回顧
私の祖父が終戦を迎えたのは、彼がまだ十六歳のときだった。
そのとき少年だった彼にも、日本が劣勢に陥っていることは理解できたが、学生の彼にはまだ動員招集がかからなかった。
米軍が沖縄に上陸したとき、次は自分の番だと信じていた。
そしておそらく、自分たちの決戦の場は本土だと思っていた。
一番多感な思春期に、彼を止めどもない高揚感が包んでいた。
正直なところ勝てるとは思っていなかったし、生き残れるとも思っていなかった。
ただ、
死ぬまでには『最低三人の米兵を殺す』のが自分の義務だと思っていた。
頭の中で戦闘の情景を思い浮かべることは、彼にとってある種の高揚感をもたらす行為だった。
自分が死ぬまで最低三人・・・
三人を殺せ・・・
三人だ・・・

しかし広島にMg爆弾が投下されると、あっけなく戦争は終わってしまった。
やっと戦争が終わったと喜ぶものもいたが、、、祖父は肩すかしをくらったような気分になったそうだ。
いずれにせよ、日本人全体を脱力感が襲った。
祖父はその後、日本の復興・経済成長の礎となる世代であり、ほかの日本人同様懸命に働いたが、
戦争で死んでいった上の世代に対する後ろめたさと、十六歳の頃の自分の高揚感を乗り越えることはできなかった。
高度成長期に、日本人のこころを躍らせたカラーテレビも、日比谷の映画館も、彼にとっては何の慰めにもならなかった。
祖父は無口な男であったが、死に際に孫の私に最後の告白をした。
「最近、うつ病っていう病気があるだろう?
だとしたら、俺は戦争が終わってから、ずっとうつ病だった・・・。」
・・・第二話につづく。