2020/03/31
第七話 萎縮
こんばんは
続きです

カテゴリ欄の『小説』に書き溜めていきますので、
そちらからアクセスいただくと読みやすいと思います。
※この小説はフィクションです。
実在の人物、団体名とは一切関係ありません。
原作
白鯨百一氏作:本土決戦
『退化が始まってしまったら、おしまい』という点において、ヒトラーの考えはまんざら間違いではなかった。
しかし、民主主義において国民は政治家にとって「票を入れてくれるお客様」である。
また、マスコミにおいても視聴者は同じく「お客様」である。
大衆にとって耳障りの悪いことは決して言わなかった。
むしろ、テレビの前で過ごす時間が長くなり、国民がその情報に呑まれ怠惰になればなるほど、都合がよかった。
『国民のため・・・、国民のため・・・、政治は国民の皆様のため・・・』
少しでも大衆の機嫌を損ねる発言をすれば、指導者であるはずの彼らは平謝りし、心にもない謝罪を繰り返した。
もうこの茶番劇は数十年前から繰り返し上映されている。
国民が現実から目を背ける「嘘つき」なら、その代表者たちは全てを隠そうとする「大嘘つき」だ。
どっちもどっち、国力低下を止めようとは決して動かない、同じ「傍観者」だったということだ。
いまにして思えば、
「なんでも政治のせいにするな!
その代表者は諸君が選んだのではないか!
いつまで経っても海外依存から抜け出せないのは、日本国民が昔に比べ、臆病でケチで怠け者になったからだ!
いい加減目覚めろ、この野郎!」
と、発言する横暴な政治家がいたとしたら、どんなに良かったことだろう。

もしかすると、今の日本も変わっていたかもしれない。
東京オリンピックの後の二十年は後退、後退、また後退であった。
私は三十代の後半から、できるだけ外食を避けるようになったし、買い物もできるだけ通販で済ませるようになった。
飲食店に行くと陰気な店員に遭遇したり、隣のテーブルに座っている家族が
カネのことで喧嘩している場面に遭遇する機会が増えたからだ。
しかし、運賃の高騰でその通販も贅沢になったし、昔みたいにすぐ配達されなくなった。
一ヶ月くらい待つことはざらだった。
配達前にその中身を配達員に盗み見られたり、場合によっては抜き取られていることすらあった。
どちらにしても、注文をした時点でそのデータは海外企業に筒抜けなわけだから、
配達員が見ようが見まいが大差はないのかもしれない。
また、多くの個人商店や零細企業が2020年から2030年の間に廃業や倒産で姿を消していった。
そのほとんどが、2021年の世界的経済危機でなくなっていたのだが、
私が四十五の頃にはスーパーをはじめとした小売店もそこで売っている品物も、海外の大手企業のものだけになった。
というより、世界から日本企業というものが消えていったのだ。
着るもの、食べるもの、住む建物。
自動車も通信機器も保険も日用品から雑貨まで、ありとあらゆるものが外国産だ。
税金はそのほぼすべてが彼らに刈り取られてゆく。
いったい「誰のため」に生きているのか・・・
考えても生活は変わらないので、考えるのをやめた。
幸か不幸か、私たちには購買力がなかったので、それほどインフレにはならなかったが、国力の低下は明らかだった。
多くの人は超巨大スーパーに行列を作って、一日がかりで一週間分の物資を買い集めていた。
もう、そうするしかない状態でもあった。
なによりも悲惨だったのは、2020年頃に流行した例のウイルスの再来だ。
その時はおよそ2年で終息し、多くの犠牲者は出したものの開発されたワクチンの効果は絶大なもので、
いまでは子供の予防接種項目にまで組み込まれている。
しかし2030年、より強力で、より凶暴化したウイルスが世界に蔓延する事態が起こる。
前回のウイルスに感染し、体内に自己免疫を得ていた人は、かろうじて生き延びることができたが、
ワクチン接種だけでこれを得た人たちは・・・そのほとんどが亡くなった。
人間選別は我々が思うより遥かに昔から進められていたらしい。
・・・第八話につづく。